ヒルデガード・E・ぺプロウの看護理論
I. はじめに
私達の職場では、ペプロウ看護理論を活用し、患者様と向き合っています
戸田病院看護部では、ペプロウ理論を看護実践に活用するために、アフター勉強会、プロセスナース制度、外部講師による講演、職場実践教育などさまざまな取り組みをおこなっています。
ペプロウ看護理論は、ヒルデガード・E・ペプロウ氏が示したものです。ペプロウの看護護理論は、患者―看護者関係の重要性に着目しており、看護に対する考え方は、個人の発達理論と対人関係の概念および学習理論から引き出されています。
看護を提供する側も、自分自身の感情と自己評価について知ることになり、私達、看護師がどうしたら前進できるか、また、専門職として成長できるかを教えてくれる良い指標となっています。
患者-看護者関係のプロセスを追いながら、専門看護師の役割を意識して関わっていくことで、早期に良好の状態へと導いていけるのです。
当院でのぺプロウ論活用例
入院時では患者様と看護者が初めて出会う場面であり、お互いに「未知の人」として出会います。つまりぺプロウ論で述べている「未知の人」の役割として、患者をあるがままに受け止める関わりから始めます。初期の段階では4段階中の1段階目である方向付けの段階から、次段階に向けての方向付けの目標を立案して関わりを深めていきます。このように段階に応じて、「同一化の段階」・「問題解決の段階」に向け、「カウンセラー」や「治療者」の役割を通していくうちに、患者‐看護者関係において、同じ目標を持つ治療同盟の関係が築かれていきます。中には患者様自身の病識がいつまでも、持てないまま段階的な治療経過が送れない方もいらっしゃいますが、根気よく関係づくりを築いていけるよう関わります。難治なケースではカンファレンスを利用して看護の方向性の統一化を図っています。また、看護間の統一を図るうえでぺプロウ論を看護計画へ導入する取り組みも行っています。
II. ペプロウ看護論の特徴
「看護とは患者と看護者それぞれが互いに学び、成長していく人間と人間の関係」
ペプロウは看護を人間関係のプロセスだと考え、患者に対する1回きりの援助は看護ではなく、看護は継続して行われることで形をなすものだと言っています。
その過程で看護師の人格が患者に大きな影響を与えると考え、さらに患者の人格や意欲、モチベーションを高めていかなければならないとしています。
このようなペプロウの看護に対する基本的な理念、考え方は即効性を求める疾患中心の看護を人間中心の看護へと移行させ、看護師独自の役割を明確にしたきっかけになったと言えるでしょう。ペプロウは人間関係のプロセスで「看護師は患者の自然治癒力を促し、精神的、身体的、社会的な人間として成長へ援助を行わなければならない」と述べています。
III. ペプロウ論を活用するための基本用語とその解釈
専門職看護の特性
第1の特性: 焦点は患者にあるということ
焦点とは、つまり人の注意が集まるところである。患者-看護者の関係において注意が集まるのは患者自身である。この特性は以下のことを意味する。
- 看護者が患者に常に関心を払うこと
- 患者と心を通わせること
- 患者の心配を明らかにすること
- 患者を観察したことを明らかにすること
第2の特性: 傍観観察より参加観察を用いること
傍観とは、ただそばにいて眺めているだけのことに対し、参加観察とは「患者の行動だけでなく自分自身の行動にも注意を払うことである」相互関係とも呼ばれる。患者の部屋を訪室し、看護者の問う言葉に対し患者が反応し、看護者がそれにまた答えるというような一連の相互関係。この特性は以下のことを意味する。
- 何かを語る 相手に伝えるメッセージを含んでいる
- 患者は何かを問うている 「私を認めてくれる?」 「私を大事だと思う?」など
- 感情を喚起する
第3の特性: 役割の自覚に関するもの
看護という業務を進めていくうえで看護者は患者との関係の中で、二次的な「役割」を担っている。例えば患者と対応する際に以下のようなものがある。
1. 母親的な対応 | 患者をあるがままに受け止め、否定的関わりはせずに患者のニードに従順な対応 |
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2. 友人的 | 患者と世間的な話し相手となり対人的に友好な関係 |
3. 指導者 | 相手に対し必要な主義や道徳的な道理を諭す |
4. 治療者 | 看護プランに基づき患者の症状の改善に向けて専門知識をふまえた関わりを持ち対応する |
5. 未知の役割 | 偏見を持たず節礼を持ち、対人関係を築く初段階 |
6. 代理人の役割 | 依存的な相手に自身で解決できるように行動を導かせる |
7. カウンセラーの役割 | 患者自身が今自分に何が起こり、その体験が生き方に統合できるよう援助する |
役割の自覚をすることは患者との相互関係の際に「状況」を見分けるのに役立つ。つまり看護者が二次的にとる行動が患者に必要な看護者の対応である場合もある。しかし、患者の状況によってはそれらの役割行動が有益かどうかは判断を要する。
第4の特性: 探究的なものであるということ
看護者が患者と接し、情報を得るために「発見する能力」、「知ろうとする能力」によって出た答えが、たとえ適切であってもその答えを終結させてはならない。患者にあったプラン、対応の仕方は患者が成長する上で変化するものである。成長していく患者やそうでない患者に必要な援助は何かを究明していく。
「探究的なアプローチ」は対人関係において欠くことのできない要素である
第5の特性: 理論の適用
理論とは、患者の行動パターンから「あなたの行動には~の意味があるのですね」、「つまり~がおっしゃりたいのですね」というような繰り返し確認された様々な体験から推測された結晶が『理論』である。
IV. 患者-看護者関係の4つの段階
ペプロウ理論の特徴に患者と看護者間のプロセスを4段階に分けて考えている。
患者と看護者が出会い、対人関係を構築し、信頼関係を築いていくうえでお互いが共に問題解決に向かっていくプロセスである。
1. 方向付けの段階 (出会い) |
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2. 同一化の段階 (求め) |
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3. 開拓利用の段階 (活用) |
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4. 問題解決の段階 (問題解決と別れ) |
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